近年になり開発されたCLT木材は、現在、普及し続けている真っ最中であり、ほかの建材に比べればまだまだ一般的ではありません。そして、こうしたCLTには、その普及度合にも関連し、さまざまな課題が持たれているのです。
CLT木材の使用について、設計者側がどのような課題を抱えているのか、またその課題についてどんな方法で対応するべきかなど紹介します。
CLTの設計については、その手法を合理化することや簡易化することが求められます。具体的には、CLTパネル工法の計算法・設計式の簡略化や、接合部の開発、そして標準化などです。
また、こうしたCLT工法における構造計算書・図面・防耐火設計の解説書など、建築モデルとなるべき情報を公開することも重要。
これらをただ単にデジタル化した情報とするのではなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)とし、設計者向けのプログラムとして開発と実用化を進めるなど、ニーズ応じた仕様としていくことが将来のCLT設計を左右すると考えられます。
CLT材を建築に使用する際には、考えた設計を反映するのが難しいという点が見えてきます。
これにはCLT材の種類そのものを増やすだけでなく、CLTに関わる新しい塗料や接着剤の開発も待たれることになります。
また、CLT以外の素材との合成した場合の設計方法を整える必要がありますし、その接合方法にさまざまな種類がなければ実際の建築現場で使用する際、デザインなどのバリエーションが限られてしまうことになります。
CLTは関連コストがかかると言われています。製造コスト・施行コスト、そして耐火関連のコストなどです。
そのため、設計者がCLTを採用しようとすると予算を超えてしまうケースが見られます。
こうした課題をクリアするためには、CLTの価格情報の整備と提供、そして何よりも関連コストそのものの抑制が必要です。
施行者側にとって、CLT材の採用にはどのような課題があるのでしょうか。また、その課題についてどんな方法で対応したら良いのかを紹介します。
施工者がCLT材による建築を受注しないと理由のひとつに、事例の少なさが挙げられます。
CLTは木材であることから、まず防水と防耐火の面において、それぞれの性能の確保と、設備機器の配線類の収め方といったディティール、つまり詳細部分の施工方法を示す図面が求められます。
そして、こうしたCLT建築の経験不足について、施工管理のポイントなど、情報の整備と公開が今後は必要となってくるのです。
CLTは、国内で古くから用いられている一般的な木材とは異なり、その発祥は海外にあります。歴史も浅く、そのような経緯もあってか調達方法や価格が確立されていない面が多々見られます。
こうしたことからも、今後は公共工事などを通じコスト情報の開示を行ったり、また、建設業者に向けたCLTの発注や調達方法といった手引きが必要となってくるでしょう。
そのほかにも運搬のために制度を整備するなど、流通面への課題は多く残されています。
まだまだ事例を重ねていないためか、不具合が生じるのではないかと、CLTの採用には不安を感じる施工者もいるようです。
こうした不安を取り除くためには、やはり施工事例を増やし、集めること。そして不具合があったならあったで、そのデータも収集することが大切です。その上で、原因を分析し、リスクを回避した場合の事例集や、トラブルが起こった際の手引きの制作などが求められます。
そして、事例を踏まえた上で、維持管理計画の立案を実施し、助成や補助事業などの成立を目指すのが理想的です。
CLT材の使用について、建築主側が抱えている課題には何があるのか、どう対応するべきかなどを紹介します。
CLTの調達にはさまざまなコストがかかる場合があることから、建築主側が採用を見送ることもあるようです。
その場合、CLTを部分的にでも利用できるかどうかを検討するという対応の仕方もあります。
しかし、やはりCLTをローコストで採用できるようにするためには、今後の技術開発や実用化が大きくものを言います。
そのためには、例えば、現し仕上げにこだわることなく、ローコストに特化したCLTを商品化するといった方法も有効です。
CLTは、ごく近年になって海外で開発された建材です。
そのため、まだまだ歴史が浅く、現在建築物に使用されていても、劣化するほど経年していないものがたくさんあります。
こうした理由から、CLTにおける維持管理やメンテナンスについては、まだまだ未知数な面も多く、今後はさらなる情報収集が待たれています。
また、CLTの劣化についての研究や、耐久性の向上に関する技術開発などにも期待したいところです。
現在の建築業界では、CLTのほか、さまざまな木材・建材が施工に用いられています。
そのため、建築主からしてみれば、CLTを採用するメリットや必要性がさほど感じられないのも事実ではないでしょうか。
しかしながら、事例を見ても、CLT材を採用した際の断熱性や蓄熱性には明確な違いとデータも出始めています。
今後はCLTを施工に採用した際に削減されるCO2の量などをしっかりと示す手引書などの情報がこれからはますます重要になります。
建築主側においても、CLTのコストは採用する際の課題となっています。
例として、ほかの工法と比較しても、建設費全体だと鉄筋コンクリートの場合は1平方メートルにつき約24万円の単価ですが、CLTは同じ広さで約27万円のコストがかかります。
ただし、今後はCLTの需要拡大を目標とし、量産化されることでコストを抑える計算がなされています。
鉄筋コンクリートと同程度のコストであれば、CLTのほうが断熱性・蓄熱性に優れていることから、省エネ効果が期待できます。
施工事例やコストなど、さまざまな課題を抱えるCLTですが、政府では利用拡大に向けて多種多様な取り組みを実施しています。利用拡大が進めば、CLTの施工に対応した業者が増え、建築コストが低下することも期待できるでしょう。
他の建築資材や工法と比べ、一般的な認知度は低いとされるCLT。政府では、CLTの認知度を高めるために、以下の取り組みを実施しています。
消費者や事業者へのPR活動はもちろん、投資に対する寄与の可視化や実証事業の促進など、多彩な取り組みを行っています。また、公共施設での活用も推進しているため、今後は自治体の役所や庁舎などでの普及も期待されます。
CLTの課題の一つであるコスト。建築コストを下げるためには、需要に合わせた供給や活用範囲の拡大が求められます。政府では、こうした課題を解決するために、さまざまな取り組みに注力しています。
CLTタイムリーな供給を可能にするために、製造施設の整備を促進しています。また、CLTパネルの標準化や低コストな接合方法の開発など、コスト削減に向けた取り組みも多彩です。土木など建築以外の分野における活用も視野に入れており、今後の製品の開発や実証が期待されます。
CLTは担い手不足も課題となっていますが、政府では担い手を増やす取り組みも実施しています。
講習会やサポート一元化を推進するほか、設計・精算ツールの開発や普及に取り組んでいます。また、各種プロセスのデジタル化推進など、担い手の負担軽減に向けた取り組みも行っています。
CLTを取り入れた建築物は年々増加傾向にあります。2015年の段階では、CLTを取り入れた建築物の竣工件数は累計で54棟に過ぎませんでした。しかし、その後はコンスタントに増え、2019年には479棟と、2015年比で約9倍に増加しています。そして2022年は累計968棟と、2019年の2倍以上に達する見込みです。
CLTに関しては、産官学が利用拡大に向けたさまざまな取り組みを実施しています。
環境整備の分野においては、林野庁が積極的に取り組んでいます。建築物での木材の利用促進に向けて、幅広い関係者が参画できるウッド・チェンジ協議会を設置。課題の検証を通し、木材を活かしやすい環境の整備・構築に取り組んでいます。このほか、事業者が建築物に使用した木材の炭素貯蔵量を発信できるよう、ガイドラインの策定も行っています。
三重大学では、CLT利用に関する実験を実施したことがあります。実験ではCLT工法による木造建築物(2階建て・延べ床面積407.2㎡)を利用し、資材の製造から施工に至るプロセスのCO2排出量を測定。同規模のS造・RC造を建築する場合と比べ、CO2の排出量が抑制されることが分かりました。
社会・環境への配慮がなされた不動産を評価するDBJ Green Building 認証。同認証において、木材利用に関する取り組みが評価項目に加えられています。建築物への木材の利用量はもちろん、木材の断熱性への寄与や地産地消の有無が評価対象となっています。なお、日本の環境認証制度としては初のことです。
企業の環境や社会への貢献度も考慮したESG投資。大手保険会社の第一生命保険では、自社の不動産投資・運用における基準の一つにESGの要素を取り入れています。各物件の環境や社会への配慮や認証の有無を考慮し、収益性をチェック。木造物件や環境・社会に配慮した物件については、ハードルレートを引き下げる判断を行っています。
CLTを建築物に取り入れる場合、シーリング計画に合わせて導入の可否を判断しましょう。利用可否の判断は、基本的に早ければ早いほどよいといえます。プロジェクトの検討段階であれば、CLTや木材の利用量を増やすことが可能です。木材の使用量が増えれば、より環境に配慮した建築物が完成し、付加価値を高められるでしょう。また、決断が早ければ業者も原木をスピーディに発注できるため、建築コスト削減に寄与する可能性があります。
CLTの利用を決めたら、設計段階で供給・調達条件を確認し、合理化のための生産計画を立てましょう。打ち合わせを重ねながら、工法や構造などのクオリティに関するプランニングの実施も必要です。
そしてCLTの安定したサプライを構築し、技術的な課題をクリアしたうえで建築物の着工に入ることが求められます。スケジュールを短縮するために、スピーディな対応を意識しましょう。
CLTの採用は収支にも影響します。特に注意したい建築コストですが、全体の費用は高くなると考えておきましょう。CLTはコストが問題であり、他の資材と比較して割高になっています。プロジェクトの資金と相談したうえで、導入する部分と割合を決めましょう。
一方、CLTは収益によいメリットをもたらす可能性も。CLTを用いた建築物は、木質材料を使っていることに話題性があり、メディアからの取材の増加が期待できます。また、メディアの記事がSNSで取り上げられることで、さらに知名度が向上するでしょう。そして話題性と知名度から集客力が向上し、テナントの収益にプラスの効果をもたらす可能性があります。
修繕・運営に関する費用は注意が必要です。屋内にCLTを利用した場合、メンテナンス費用はさほどかかりません。一方で屋外は紫外線や風雨にさらされるため、定期的なメンテナンスは必須といえます。
日本を代表する樹種ヒノキの
特徴と
CLT木材への活用などを紹介
中大規模建築物でCLTを使う場合、タイプによって使用する部分・割合が変わります。
上層部使用タイプは、建築物の上層部のみを木質化します。耐火被膜を少なくすることで建築コストを削減。プレハブ化による工期の短縮も可能です。
床のみ使用タイプは、フロアの床面にCLTを使用します。工法を工夫することで工期の短縮や、建築コストの抑制が可能です。また、延床面積あたりの木材使用量を読みやすくできるのもメリットといえます。
仕上使用タイプは、内外装の仕上げ部分にCLTを使用します。現しが可能な部分については、木材の木目を活かすことが可能です。
準耐火・現しタイプは、別棟を準耐火建築物とし、内装の制限がない範囲でCLTを使用するタイプです。単体でのインパクトが大きく、建築物のデザイン性を高められます。
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