CLT木材は効率的な施工を可能にし、デザインの自由度も高いなどのメリットがある一方でコストが高いというデメリットもあります。そこでCLT木材のコストの考え方を中心にお金についての話をまとめました。
さまざまある建築材料の中でCLT木材の価格が高いことは否定できません。それは日本においてはまだ普及段階で需要量がそこまで多くないことがあります。また供給体制として生産設備を持った事業者が少ないことも一要因です。
CLTは1995年頃にオーストリアで誕生し、その後ヨーロッパ各国からアメリカ、カナダと拡大し使用されるようになりました。日本での製造は2013年が初めてでCLT製造事業所は8箇所のみ※。普及拡大のために低価格化は課題の一つと言えます。
CLT木材の価格の目安は1m³あたり150,000円程度です。世界のCLTの生産能力は年間100万m³を超えると言われますが、日本での需要量は年間5,000m³ほど。価格競争力があるとは言えず現在のところ急激に価格が下がる傾向はありません。
しかし建築材料としての能力は高く、建築現場での工期を短くしたり作業によるコストメリットもあります。また森林資源の有効活用が可能なため、国が普及拡大に積極的に取り組んでおり将来的には現在の半額にすることを目指しています。
CLT木材の拡大は国が支援する事業であるため建設の際にCLTを活用する場合は、林野庁や国土交通省が主管の補助金や助成制度を利用できます。また直接は関係なくともCLTを活用することで助成金の対象となるケースもあります。
林野庁の主管でJAS構造材利用拡大事業、木質耐火部材等利用拡大事業、CLT建築実証事業。国土交通省が主管のサステナブル建築物等先導事業などがありますので、CLT木材を検討中の方はチェックしておきましょう。
CLT木材のコストは高いといわれていますが、岡山県が2018年にCLT木材を用いた建築物のコスト調査を実施しています。調査は前年度から行われており、CLTの利用促進を図ることが目的です。また、S造・RC造と比較した場合の建築コストの比較検討に取り組むとしています。
岡山県が実施したCLT建築コスト調査は、一般社団法人岡山県建築士事務所協会と連携して実施されました。浅口市内にあるCLT造の2階建て事務所をモデルに、S造・RC造で同規模の建物を建築した場合と建築コストを比較しています。なお、2018年度調査では現場作業人員数や工事期間も比較検討されています。
一定条件下で比較した結果、CLT造とS造・RC造はほぼ同等の建築コストになりました。一方、現場作業員の人数はS造・RC造より少なくて済むことが判明。CLT造を100とした場合、S造は136、RC造は254という結果になりました。工期はCLT造が6ヶ月に対し、S造・RC造は7ヶ月となり、CLT造が工期の短縮化に寄与する可能性が示唆されています。
岐阜県もCLTパネル工法の木造とS造のコスト比較を実施しています。県内に建築された木造2階建て・準耐火建築物の共同住宅をモデルとしたもので、これをS造で建築した場合を想定したコスト比較が行われています。
岐阜県が試算に使用した木造のプランは、CLTパネルを内外壁に使用しているのがポイントです。CLTパネルは材料費や金物費用が高くなりやすいため、CLTパネル工法を取り入れつつも、部分的にCLTを使うことでコストを削減する計画としています。主に90mmのCLTパネルを外壁・内部間仕切壁に使用し、柱や梁は従来の軸組で構成。二階床や屋根など、水平構面は構造用合板を採用し、在来軸組工法が取り入れられています。
この共同住宅と同規模のS造のコストを比較した結果、本体工事費は木造が1億5,352万円、S造が1億6,064万円となりました。S造に比べ、木造は約700万円安く済むことが分かります。もちろん一概にはいえませんが、比較結果からは木造への置き換えも可能であることが伺えます。
ただし、木工事と鉄骨工事を比較した場合、木工事が高くなるとの結果が出ています。木工事が6,895万円に対して、鉄骨工事は4,302万円となりました。CLTを用いることによるコスト増と、金物を多く使用する点がコストに影響しています。
岐阜県のコスト比較では、建具工事費についても言及されています。木造とS造の建具工事費は、木造が861万円、S造は1,536万円という結果になりました。S造が金額にして600万円以上、約1.8倍高いことが分かります。なお、木造のプランでは住宅用サッシを用いたのに対して、S造プランではビル用のサッシを試算に使用しています。そのため、建具工事費に大きな違いが生じています。
住宅用サッシは規格品が多い一方、ビル用サッシはオーダーメイドが一般的です。このような違いが建具工事費に関わるほか、建築後のメンテナンス費用にも影響します。ビル用サッシは、施工を担当した業者に修理やメンテナンスを依頼する必要です。また、サッシの取替時にもオーダーメイドが必要なため、費用が高額になる傾向があります。メンテナンスや取替も考慮した場合、コスト削減効果は木造が優れているといえます。
基礎工事の費用(地盤改良費を除く)に関しては、木造の優位性が示されています。岐阜県が行った試算では、木造の基礎工事費が489万円、S造が1,333万円となりました。およそ2.7倍の違いが生じています。ただし、木造は布基礎、S造では独立フーチング基礎を採用しています。例えば布基礎からベタ基礎など、基礎の工法を変更した場合、試算結果も変わることに注意が必要です。
木造の基礎工事費が安く済む理由として、コンクリートや鉄筋の使用量が挙げられます。布基礎は独立フーチング基礎に比べて杭が浅くて済み、断面も小さくなります。その分コンクリートなどの使用量が少なくなるため、コストも安くて済むのです。木造を採用することで、基礎工事費を削減できる可能性があります。
岐阜県による試算では、木造は地盤改良が不要との結果が出ています。試算に用いた木造プランでは、設計地耐力が一般的な木造住宅と同等の30kN/m2で、地盤が良好だったことも影響し、地盤改良費は0円となりました。
一方でS造へと置き換えた場合、100kN/m2の設計地耐力が求められ、地盤の支持力が足りないとの結果に。地盤改良工事が必要で、1,000万円のコスト増加になるとしています。基礎工事費も含めた場合、木造とS造では1,800万円以上のコスト差が生じています。
岐阜県の試算では、S造より木造のほうが建具工事費・基礎工事費・地盤改良の3店で優れることが示されました。しかし、あくまでも試算結果であり、必ずしも木造がコスト削減に繋がるとは限りません。
例えば軟弱地盤に建築する場合、木造でも地盤改良工事が必要になることがあります。また、建具の種類やグレードによっては、大幅にコストが増加するケースも出てくるでしょう。いずれにせよ、ケースバイケースであることを念頭に置く必要があります。
CLT木材を低コストでなおかつ品質の高いものを選ぶためには、用途を明確にしできるだけ無駄をなくすことが重要。ある程度CLT木材に知見がある場合は、設計・施工は依頼せず調達のみにするなど工夫が必要です。またJAS規格に適合するメーカーの中から年間製造能力の高い会社に見積もりをとることをおすすめします。
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